佐藤友幸(東京都北区役所職員)
ラブクラフト(工作)
ダブルフェイス
「ダブルフェイス」
ヴィヨンの妻
僕が小学生の頃だった。幼稚園児の頃から仲良くしているお姉ちゃんが居て梅雨が好きな人だった。旧田中家という場所があって僕が子供の頃はまだそこに似たレンガ造りの建物が残っていて、そのお姉ちゃんは梅雨の雨の日に僕が外でアジサイを見ながら遊んでいると傘を差してくれた。
「早く濡れるから部屋の中へ入っておいで」
と。僕の受験勉強が始まった頃だった。彼女は遠方の親戚に用があると言ったきり帰って来なくなった。
僕は地元に戻りたくて中学を転校したのだけれど、雨の日に濡れて帰るのは彼女のことを思い出したくてだった。僕はどことなく彼女のことを梅雨の季節から「さつき」と呼んでいた。
僕は忘れっぽい性格だから彼女の顔は覚えていても名前は思い出せない。彼女はよく僕に言った。
「目の前のことを大切に。存在しないものは愛せないのだから。」
彼女と同じ部屋で寝た訳でも、彼女と一緒に暮らした訳でもない。ほんの短い間、彼女が僕の横で傘を差してくれただけだ。僕は大人になる度に来る日も来る日も彼女のことが恋しくて泣いた。彼女の面影がどこか遠くへ行き、薄れて行く度に大人になることを拒み続けていたのかもしれない。
僕は今大人になって酒も出来る、煙草も出来る、一人でどこにだって行ける大人になった。そんな時だった。彼女の代わりにもう一人僕に傘を差してくれる人が現れた。
「私の傘に入りませんか?」
傘も差さずに一人で濡れてばかりの僕に彼女だけが傘を差してくれた。温い涙が雨の水滴と一緒に落ちると彼女は部屋に連れて行き、温かいスープを僕にくれた。
「どこから来たんですか?」
「地元はここなんですか?」
「お兄さんは面白いですね」
そう談笑をする度に話が弾み、気が付けば彼女のまなじりにはどことなく見たことのない優しさが溢れていた。その時に僕は初恋の人の言葉を思い出した。
「目の前のことを大切に。存在しないものは愛せないのだから。」
無情にも雨の音だけがそこに鳴り響いていた。
外が暗くなり、僕は帰り際
「大丈夫です。僕は一人で帰りますから。」
そう告げると彼女は
「寂しくならないように…また寂しくなったら来て下さい。」
ただ僕は会釈をして微笑むと
「ありがとう」
そう言ってその場を立ち去った。
雨宿りをすると思い出す。家族と共にあの雨明かりが僕と幸せを願う人の心を照らしているようだと。
…
高山は自宅のマンションに帰って居た。
あれからどれくらいの月日が経っただろうか。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、一口飲みかけた。
初めは幻想かと思った。
末永真理。
高山は言葉を失った。
しかし、またいつもの自分に戻った。
高山はその場に立ち、末永真理は立ち上がると、高山の方へ歩み寄った。
高山は直前で
「どうしたんだ?」
「ありがとう」
高山は茫然とした。
何を言ってるのか分からなかった。
末永真理はばつが悪そうに、目線を外しながら、それでも
「ありがとう。おじさん。…確かにおじさんは変な人だし、…いい人じゃないかもしれないけれど、けど、本当にありがとう。…あぁ、初めて家族って、こんなもんなんだなぁ…って」
ふてくされたみたいなぶっきらぼうな言い方は相変わらず、変わって居ない。
「おじさん。」
高山は真理の目を見た。
「けど、…これから私もやり直そうかなぁ…って。きっと変わらないかもしれないけれど、あの時、本当に楽しかったよ。ほら、花火したじゃん…あの時、本当に、家族って、いいんだなぁ…って。」
高山はずっと黙って居た。
家族。
あの頃と違う。
人の為に。
高山はずっと、分からなかった。
けれど、あの時の自分、あの頃の想いは決して間違いじゃなかった。
真理はテレビを点けた。
「ありがとう。今まで。」
真理はその場から立ち去った。
テレビの中の真理は「おじさん、おめでとうー!!!」と去る年、行く年の歳月を祝うものだった。
何より…高山が本当に見せたかったのは自分の幸せではなかった。
自分の幸せではなく、他の誰かの笑顔だったかもしれない。
昇進も祝い事のプレゼントも与えられるべきところに行くべきだった。
高山は電話を取り出した。
「今から会えますか?」
目の前で待っていたのは
「森屋は殺されました。私が殺したのも同然です。」
幼き頃を知る彼女に
「そうですか…」
一言彼女はそう言うと
「愛する人は一人だけでいいのよ、私には大切な人が居るから。」
帰り際
「お気をつけて」
と高山は言われると
「死ぬだけだ。」
森屋が後ろから笑っていた。
撃ち抜かれた銃弾は無情にも雨に打たれた高山の亡骸を赤く染めた。
夜。煙草を吸いに、森屋は外に出た。外は寒かった。微かに見える星はまるで、街の光に消される様に光っていた。周りは薄暗い暗闇につつまれていた。向こうには街が眩く光る。
もし、普通の人間だったら、と考える。この数年、誰かに本当の自分のことを話していない。不思議だ。思ったより、一人になることは簡単だ。普通に生活していても、堅気じゃない行いをしても、一人で動いた方がやりやすい。
森屋は遠く、街の方を見た。しかし、人間は一人では無力だ。無意味なんだ。この社会は人で成り立ってる。
ただ、人でこの世が成り立っていればいい。しかし、何故、こんなにも人に義理を感じる?自分がヤクザで、堅気に迷惑をかけられないからか?それとも、自分が、警察で、いつか、その犯罪者が適正な法的手段で、裁かられることを願っているからか?それともヒロシの存在か?・・・感情など、無くなってしまえばいいと思ってた頃もあった。
しかし、数年経った今、こんなにも冷静だ。ヤクザとして、この光景を見慣れたのか、それとも、本当の警察の真義に気付き始めたのか・・・。森屋は煙草をかき消した。森屋は思った。こんなにも人は心で死んでいるのに、肉体は死なないものだ、と。
森屋が死去する数ヶ月前、森屋は弟分のヒロシと飲みに出かけた。街は生ゴミが腐った臭いが広がっていた。まるで、屎尿が腐った臭いだ。
「兄貴、ここ、すげぇ臭くないっすか?」
ヒロシがわざとらしく鼻をつまんだ。
「そうか?俺は鼻が詰まってるみたいだな。」
「え?嘘でしょ?兄貴、よっぽど鼻が麻痺して・・・」
「ヒロシ、少しうるさいぞ。」
森屋はヒロシの頭を軽くはたいた。「・・・っぃて~、兄貴ひどいじゃないすか~、俺、正直なこと言っただけっすよ、」
森屋はそそくさと先にバーに入った。「ちょ、兄貴ー」
バーに人は居なかった。薄暗い、古いバーだ。この辺りには昔の香りがまだ残る横丁街が広がっていた。
「兄貴、何で、ここに来たんすか?もっと他にいい場所あったでしょ?」
「ぼやきすぎだぞ、ヒロシ。お前、俺の弟分だろ?」
「そりゃぁ、そうっすけど・・・」
森屋は飲んでいた酒をカウンターに置くと、煙草を取り出した。バーの店員がちらと見ると、森屋と目が合い、しばらく森屋のことを見ていた。
「死んだ、友人の分だ。今日が命日なんだ。」
そう森屋は言うと、バーの店員は背を向けた。
「死んだ、友人の命日・・・?」
ヒロシが心配そうな顔して森屋を見た。森屋はヒロシの顔をしばらく見ると、「ああ、この煙草はそいつの分だ。俺は吸わない。」
森屋は微笑った。
「ただ、あいつは煙草も吸わない、本当はガチガチな位真面目な奴だったよ。」森屋はまたヒロシの方をまた向くと、笑った。
「お前みたいに、お人好しで、臆病な奴だったよ。」
「ちょっ、兄貴、・・・何で死んだんすか、その、友達は?」
森屋は深い無意識の海の底に沈めていた、記憶を呼び覚まそうとしていた。しかし、森屋は怖れていた。この記憶を呼び覚ませば、この世界から抜け出せなくなるかもしれないと。それでも、森屋は思い出したかった。その“友人”の罪を償いたかったからだ。
「数年前のことだ。今日みたいな曇った重苦しい空の日だった。」
その日、織田組では臨時集会が行われた。下の者から上層部の幹部まで集まり、最後に後から織田組の頭、織田 大成が集会の場に姿を現した。今日、臨時集会が収集された理由、それは
「お前等、もう知っていると思うが、今日、我々が仕切ってる街で、うちの組の幹部が中国マフィアによって、奇襲された。」
織田が口を開くと周りの組の者はざわめいた。
「こうなりゃ、抗争だ!やり返しましょうよ!親父!」
組員の一人がそう、言い放った。織田はその若い組員を見ると、距離を最大限に縮め、目を真っ直ぐ見つめた。
「おい、お前、何年ヤクザやってんだ?お前、自分の兄弟達が死んでもそれでいいのか?」
「それは・・・」
「お前、死んだら責任取れんのか?お前がタマ張るのは構わねぇけどな、俺たちは身を寄せ合った家族だ。ヤクザであれど、親や兄弟に犠牲を払って、得たものなんて、犬でも喰わねぇぞ。」
「・・・」
織田は溜め息をついて、目線を外し、また若い組員の目をじっと見直した。
「けどな、お前みたいな若造でも、俺たちの家族だ。俺たちの家族の一員に自分から選んで入って来たんだからな。俺とお前は血を分けた息子と同じだ。そうしてお前は、あの盃をくみ交わしたんだろ?もう、餓鬼みてぇなこと言うんじゃねぇぞ。お前も一端の織田組の一員だ。」
「はい、分かりました・・・。」
若い組員は去勢された負け犬の様に押し黙った。織田はフと微笑むと
「のし上がりたきゃ、のし上がれ。這い上がるんだ。」
織田は全員の方に向き直した。
「あいつらが欲しいのはここ一帯のショバ代だ、だが、争いを起こす積りは無い。しかし、断固たる対応を取るんだ。中国マフィアから、海外のマフィアはこの日本でオイシイ話を求めてやって来てる。今回のマフィアはまだ、その中でもゴロツキの程度とでも考えていいだろう。我々が相手にするのは、この国に来てる、本土にデカイ組織を持つマフィアだ。彼等は政府ともパイプを繋いで、関係を持ってる。彼等と薬物の取引をすれば、高額の値で取引される。これは、ビジネスだ。俺たちは世界に出る。黒新会に先を越される前に、取引の為のパイプを着実に確保しろ。いいな、お前等、分かったな?!」
周りが一斉に承知の声をあげた。
「純、」
織田が森屋に近付いた。
「はい、何ですか。」
織田が森屋に微笑んだ。
「送ってくれないか、そのついでに話もある。」
森屋は迷いを顔に出さない様に、笑みを作った。
「はい、もちろんですよ。お送りします。」
「よし、それじゃ、出してくれ。」
肩をポンと叩くと織田はその場を去った。森屋は静かに、そして秘かに思った。
“・・・話?何のことだ?中国マフィアとの取引は、下と、他の幹部に任せて、織田自身はまだ直接介入しないはずだ・・・”
動揺して、震えそうになるのを堪えた。指にはめてあったリングを見た。警視にはもう既にモールス信号を送ってある。先ず、この話は警視と会ってからだ。一人ではどうしようも出来ない。デカイ取引になりそうだ。車の中、しばらく沈黙が続いた。
「純。」
鼓動が静かになって行くのが分かった。
「何ですか?親父。」
織田は窓の外を見た。
「0と1の半分は何だと思う?」
「0と1?数学ですか?」
織田は鼻で笑った。
「そうか、そう考えるか。」
森屋には何を考えてるか分からなかった。
「じゃぁ、お前、表と裏、どっちが自分だと思う?」
「それは、一体・・・」
「堅気とヤクザの違いって何だと思うか?」
森屋には答え様が無い事が分かった。
「お前には答え様が無いかもな。」
背筋に微かに寒気が走った。
「お前は、俺の右腕だ。俺のためによく働いてくれる。自分のことなんて、考える暇なんて、無いだろう。すまないな。」
緊張が一瞬でほぐれた。
「いや、いいんですよ。親父のためなら、」
「じゃぁ、俺が教えてやる。」
静寂が周りを包んだ。
「実を言えば、堅気とヤクザは根にあるものは変わらない。堅気もヤクザも俺たちの様に家族を持ち、寄り添う。何故なら、人は人間であるからだ。じゃぁ、何が違う?・・・純、当ててみろ。」
黙るしか無かった。
「実を言えば、堅気もヤクザも違いなんて無い。人は一人では生きて行けない。差別や、階級の上で人は、社会は成り立つ。俺もお前等があっての自分だ。本当は何が違うかではない。」
森屋は頭の中が真っ白になり始めた。
「自分自身が境界線なんだ。俺たちは、過去、現在、未来・・・歴史によって成り立っている。しかし、今を生きてる限り、過去には生きられず、未来を予測することは出来ない。ましてや、自分の死すら、予想出来ても、人の定めを迎えるまで、感じ得ないんだ。」
織田はまた窓の外を見た。
「自分が生きてるのは、此処であり、其処でもある。自分を見失えば、待つのは何だと思う。」
森屋は息をのんだ。
「純、お前は本当は何を考えてる?」
織田を自宅まで降ろすと、織田は別れ際にこんなことを言った。
「人は、自分を疑えない。他人を信じるな。ただ、自分を疑うんじゃないぞ。」
森屋は家に戻ると、眠りについた。考えていても、埒があかない。忘れなければ、いつか、終わりが来る。自分が信じることを出来なかった。
次の日、森屋は警視と会っていた。警視に中国マフィアとの取引の準備を織田組が進めていることを伝えると警視は森屋に
「黒新会との関係を洗え。」
と言うと、
「何故です?」
何故、中国マフィアとの取引の話に抗争関係にある黒新会との関係を洗わなければならないのか、森屋には不思議だった。
「黒新会はもう既に中国マフィアとの取引の手立てを済ませている。織田組の者がそれを知れば、より抗争は増すだろう。しかし、もう既に中国マフィアは日本に黒新会を通じてパイプを作ってる。そこでだ、既にあるパイプから、黒新会と織田組を叩き出すんだ。」
森屋はもうやり切れなかった。
「織田組の次は黒新会、何年、もうこんな生活してると思うんですか?もうそろそろ10年近くですよ!次は黒新会に潜入でもしろと言うんですか?!」
「落ち着け、お前、自分を見失ってないか?お前はヤクザ者じゃないんだぞ?警察だ。昨日、何があった?」
森屋はふと、我に返ろうとした。
「お前みたいな潜入だけじゃないんだ。」
森屋は何のことか分からなかった。
「潜入だけじゃない?」
「お前、中国でヤクを持ってたらどうなるか知ってるか?」
「それは・・・、それって、」
「織田組の幹部を襲わせたのは、俺のよしみだ。」森屋は抑え切れなかった。
「それがどんなことだと思ってるんです!?あなたは警視だ!警察なんですよ!」
警視は重く静かにただ、
「そうだ。」
と口を開いた。
「お前、警察とは何だと思う。」
森屋は答えようとしたが、答えられなかった。
「お前は、潜入だ。このこと自体が違法なんだぞ!お前、正義は何で成り立ってる?正義という言葉の“義”という言葉は何だ?警察学校ではこんなこと教えてもらえなかっただろうけどな、けど、だからこそお前を選んだんだ。この街を始め、国の為に、自分自身のことを自我さえ捨てられる人間だと思ったからだ。これは、一つの大義なんだ。どんなことでも、犠牲で成り立つ歴史があれば、その犠牲で今が成り立ってるんだよ!それを最小限に抑える為に俺たち警察がいるんじゃねぇか!」
森屋は言い返すのを止めた。
「しかし、中国マフィアが違法薬物の取引の為に日本に乗り出して来始めてるのは確かだ。最近までは偽造パスポートの発行や不法滞在者の渡航の仲介をしていたが、最近になって、中国人のゴロツキどもがショバ荒らしをしていた。それで織田組や黒新会を始めとした日本の既存の暴力団が、ゴロツキどもや、中小規模の中国マフィアを黙らせようとしたんだ。だが、その情報を得た中国本土の最大規模の中国マフィアがそのゴロツキどもを抑え、ショバ代を必要としない代わりに日本の暴力団に様々な活動の仲介をしてくれと頼んだ。その手始めとして、高額なビッグビジネス、ヤクの取引の話が出た。その他にも、抗争には触れないことを約束し、お互いに利潤が出る様に話を進めてるそうだ。」
「どこでその情報を?」
「もちろん、田所からだよ。」
小野寺警視は息を吸うと少し間を置いた。
「どうしたんです?」
「いや、少し気がかりでな。」
「何がです?」
「中国マフィアはあくまで仲介役だが、噂にも過ぎないんだが、聞いた話によれば、その立場を利用して、織田組と黒新会の抗争を和解に導こうとしてるらしいんだ。」
「和解?」
「ああ、中国とのヤクの取引はものすごいデカイ、高額なビジネスになる。中国では薬物は死刑だ。一歩間違えば、命取りになる。しかも、中国マフィアは世界でも有数規模の大きさを誇る集団だ。日本の暴力団の規模など、到底匹敵するものではない。しかし、日本の暴力団と、中国マフィアが手を組めば、日本の暴力団と言えど、一般企業にすれば一流大企業に経済影響力は匹敵する。日本の裏社会は確固とした体制と組織で成り立つだろう。現にマフィアと繋がってる政府の幹部も多からず少なからず、居るみたいだ。その為に、一つの体制となる必要がある。その仲介役と新たな最大規模の犯罪組織の立役者が中国マフィアだ。」
森屋は織田の言葉を思い出した。
“俺たちは世界に出る。”
「その話、本当なんすか?」
「確証は無いがな。」
「どうする積もりです、その話が本当で織田組と黒新会が手を組めば、警察で到底抑え切れなくなる、何か、手を打たなければ、このままだと・・・」
「ああ、分かってる。」
小野寺警視は森屋に話を切り出した。
「落ち着け、計画がある。」
「計画?」
「さっきから、質問ばかりだな。少しはヤクザ者から警察に切り替えるみたいに頭使え。」
「・・・すいません。」
「ただ、これが、少しでもしくじれば、元の抗争に戻る。よく聞け。」
「はい。」
「近々、中国マフィアの傘下の連中が織田組と取引に日本に来る。その時、取引を成立させろ。」
小野寺警視は最後にこう言った。
「・・・取引が成立したら、中国マフィアの拠点がある中国にも行け。黒新会との関係も洗うとともに、黒新会と、中国マフィアの幹部にパイプを作れ。・・・最後に残るのは白と黒だ。」
森屋はとある横丁街を歩いてた。晩飯の買い出しを安く済ませようと思った。森屋はふと、背後に気配を感じた。足音は速くなる。とっさに振り向いた。
「黒新会か?!」
その男は黒新会の組員では無かった。遠い、昔の懐かしい記憶が蘇った。
森屋と男は昔馴染みだった。二人は横丁街のバーで飲むことにした。
「純、お前、さっきどうしたんだ?黒新会って何のことだったんだ?」
「気にするな、ちょっとばかり、借金抱え込んでるだけだ。」
男は笑った。
「嘘つけ。第一、お前高校時代から警察になりたいって言ってただろ?俺は善人になるんだって。そのことはどうなってるんだ?」
森屋と男は目が合うと頬が緩んだ。
「友幸、お前こそ高校辞めた後どうしてたんだ?」
佐藤友幸、森屋の高校時代のほんの僅かな数少ない唯一の友人だった。友幸はハァと息をつくと話をした。
「俺は、あの後、大検を受けて、大学にも入ったよ。その後、普通に就活をして、今はただのサラリーマンだ。」
「・・・それだけか?」
「ああ、そうだよ。つまらない程、退屈で平凡な人生が俺の人生だ。」
「そうか。」
森屋と友幸は笑い合った。
「ところで、純、お前、雰囲気変わったな。」
「そうか?」
「見るからにやさぐれてるよ。昔は真面目な努力家って感じだったけどな。」
「・・・そうか、今の俺は別に昔と変わっちゃいない積もりだ。逆に、今は・・・」
森屋は言葉に詰まった。
「ああ、分かってるよ。変わっちゃいない。俺だって言えないことがある。」
森屋はまるで自分のことを見透かされている様な気持ちになった。友幸は少し言いづらそうだったが、森屋に自分のことを問いかける様に話しかけた。
「なぁ、俺、実は病院通ってるんだ。」
「病院?何のだ。」
「精神病院。」
森屋は友幸のことをじっと見つめた。
「精神病院?」
「ああ、統合失調症っていう病気だ。中学生時代からずっと通ってる。」
森屋は友幸が病気にかかり、病院に通ってたことを今の今まで知らなかった。
「お前、病院通ってたのか、・・・一体何の病気だ?」
「幻想を見るんだ。現実との区別がつかない。」
友幸が森屋の吸ってる煙草を見た。
「俺にも一本くれ。」
森屋は懐から煙草を出すと友幸は煙草をくわえ、森屋が火を点けると慣れなさそうに煙草をふかした。
「お前と出会う前、俺はいじめにあってた。不登校だった時期もあったし、けど、それがだらしない自分だとも思わなかった、普通に人にとって当たり前の自由を手に入れたかったんだ。まぁ、今の今までずっと誰かに自分の最低限の自尊心さえ踏みにじられたのかもな。知らない人からも結構色んなこと言われてた、のか、そんな気がしてただけなのか、今でも分からないが、ある日、学校に行ったんだ。そしたら、昨日自分がやっていたことをまるで知ってるかの様にクラスメートが口にした。偶然だったかもしれない。しかし、言動、パソコンの検索履歴、全部関連性があって、全く言ってるそのままだった。俺は正直、人には言えない恥ずかしいこともあった。けど、それが全て筒抜けだった。俺は裸で外を歩いてる様な、錯乱狂の様な扱いをされてる気分になったんだ。」
「ああ。」
森屋は黙って聞いた。
「・・・それでだ、その日からハッキングをされてるのではないかと疑う様になった。家のカーテンもすっかり閉め切って、俺は毎日、臆病に災悩まされた。・・・逆に強がってたのか、どうなんだろうな。」
友幸ははぐらかす様に森屋に言った。
「俺が自殺を考える様になったのは小学校低学年だ。」
「そして、俺は学校にあったカウンセリングルームに通うことになった。そこのカウンセラーさんの紹介でそのカウンセラーさんの勤めるクリニックに通うことになったんだ。それで、つけられた病名が今言った病気だ。」
「・・・統合失調症?」
友幸ははにかむ様に微笑んだ。
「ああ、今通ってる病院では発達障害やら何やら、別の病名がついているが、実際はそんなもんじゃないよ。治療はいつ終わるか分からないし、これからしばらくずっと通わなきゃいけないなぁ・・・」
友幸は急に黙った。
「・・・どうした?」
友幸は取り繕う様にずっと微笑んで居た。
「いや、実際、俺はどうなんだったんだろうってな、もし、あのハッキリと聞こえた道行く人の言葉や、あの学校で聞いてたこととかが事実だったら、俺は何の為にあの注射を打ってるんだろうって。」
「どういうことだ?」
「いや、いいんだ。」
友幸の顔の陰には微笑んだ顔の下に泣き腫らして、涙が枯れてたときの様な虚しさを感じた。
「・・・まぁ、いいや!とにかく、・・・でも、最後まで、今でも消えない幻想があるんだ。」
「何だ?教えてくれよ、友幸。」
「俺は実は有名なアーティストに中学生時代、歌の歌詞を書いた手紙を送ったんだ。2つ、歌の歌詞をな。ただ、俺にはその歌が今残っているのに、何故、その記憶が無いのか、分からないんだ、まぁ、恐らく、いや、多分幻想に過ぎないけどな。」
「・・・」
「でも、今でも思うよ。ああ、俺は何をしてたんだろう、警察にも何度もお世話になって、周りの人に迷惑をかけて、時には傷付けたりもした。俺が例え、どうであれ、どうしようもない、いい人間にはなれない。ただの馬鹿野郎だな俺は。」
森屋はあえて何も言わなかった。自分の触れてはいけない心の闇の様に、無意識のうちの友人である友幸の支えが崩れ去りそうだったからだ。
「・・・でも、純、お前が警察になると言ったのは分かる気がした。本当にどうであれ、お前の支えがあったからだ。いつも、一人だった俺をあえて、特別なことを言わないで、ずっと見ててくれた。」
「友幸、俺は」
森屋は最後まで口に出来なかった。自分はどんな形であれ、警察になって、大義を全うしようとしている、少なくとも、一つの組織をその為に消し去ろうとしていることも。店を出ると、最後に友幸がこんなことを聞いてきた。
「お前、次会ったら、何処か、飯食いに行かないか?」
森屋は口を濁した。しかし、森屋の中で何かがたりないのか、満たされ始めてるみたいだった。
織田組と中国マフィアの取引が成立すると、数日経つと取引が開始した。森屋は中国マフィアの傘下である香龍会の頭、王と接触をしていた。
森屋は小野寺警視に言われた通りにこの香龍会を通じた取引を中心とすることを織田に認めさせ、香龍会を通じて、中国マフィアとの取引を成立させた。王は今、日本に居た。森屋は通訳を通し王とやりとりをした。
そして、その時、もう一人警視と繋がっている暴力団関係者を連れていた。桜井聡馬、織田組と友好関係にある仁友会幹部である桜井はこの取引の見届け人を請け負った。森屋は今回の取引はあえて見逃す様に言われた。
森屋は桜井と二人になると桜井に質問をした。
「なぁ、あんたも潜入か?」
「違う。」
「じゃぁ、何で小野寺警視と関係を持ってる?」
「それは・・・元は堅気だっただけだ。警察の潜入をやっていた頃もあったが、あえてこの道を歩む道を選んだ。こちらの方がやりやすい。」
「何でだ?これじゃぁ、警察として犯罪組織の奴等に示しがつかないじゃないか?」
桜井は森屋の目を睨むかの様に見た。だが、森屋の考えを見透かし、見逃すかの様に目を外した。
「世の中、悪人や犯罪者だけを追うのが警察じゃない。本当は見過ごされた人間達を救うのが警察だ。ただ、今はもうそんな時代じゃない。世の中が人を死に、死刑に吊るし上げる。人が人を殺して来た。元はと言えば、この世にヤクザを授かったのは人の情けと定めだ。言葉の神が人を殺す。差別を生み出したのはこの国の言論の自由だ。成さざる者が対を成して、社会悪となる。その真義とは何かを考えろ。」
その後、桜井は仁友会の最高幹部に殺害されたとされているがその場にはその最高幹部の遺体も見つかった。その場に他の誰か、第三者が居たということだった。次の取引の際、織田組と黒新会の和解の手立てが水面下で行われるとされた。
しかし、香龍会の頭、王による組織内でのクーデター、そして、織田組と黒新会による和解の見解の相違、裏切り行為により、香龍会の王が新たな組織の頭となると、話は白紙に戻り、水の泡となった。森屋と桜井は王に日本との取引をとりまず、白紙にする代わり、組織の下剋上を手助けする様に申し出ていたのだ。
・・・・・・・後は織田組の違法薬物の所在と取引の場をおさえるだけだった。その日は全てが終わり始めることを友幸に伝える為、待ち合わせの六本木へ向かっていた。すると、六本木に着くとそこでは目出し帽を被った複数人のグループが誰かを殺そうとしていた。
森屋は止めに入ると、次の瞬間、こう叫んだ。
“大丈夫か、しっかりしろ”
森屋はその後のことは思い出そうとしても、記憶が浮かび上がることは無かった。
友幸は六本木を拠点とする不良外国人のグループに殺された。一度、そのグループのメンバーとトラブルがあり、トラブルはその時は収まりはしたが、憚る様に見えた友幸の姿に嫌悪感と憤りを覚えたグループのメンバーは殺害を計画し、今回の事件に至った。
友幸の家に行くと、そこには友幸の書いた小説と記憶が残されていた。森屋はそれを借り、家で読んだ。その後日、小野寺警視と織田組壊滅の計画の筋道を立てると、森屋は小野寺警視にこんな質問をした。
「警視、」
「何だ、まだ何かあるのか?」
「・・・警視、死刑とは何だと思いますか?」
「なんだ、この期に及んで、そんな話を、織田組にはそれ相応の適正な裁きが下るさ。」
森屋は小野寺警視にこう言った。
「これは、俺の数少ない、唯一の友人の言葉です。死刑とは、意義だ、俺の悔しい気持ちをバネにして、この世の悪を消し去ってくれ。俺の友人の遺書に書かれていた言葉です。」
「・・・そうか。」
「・・・俺は、この織田組壊滅の件が解決して、刑事に戻ったら、必ず、この国に二度と同じ過ちを繰り返さない為に、見過ごされた人々を、二度とこんな風に終わらせない為に、何よりもあいつ、あの友人の為にすべてをかけていきます。」
小野寺警視は森屋に近付くと、肩をポンと叩き、微笑んだ。
「いい志だ。」
それだけ言うと、小野寺警視はその場を去って行った。
「ヒロシ」
「何すか、兄貴?」
「お前、やっぱり似てるよ。あいつに。」
「そんなことないっすよ。お気の毒ですね、その・・・友達。」
森屋は久しぶりにこんな優しい気持ちで笑うな、と思った。
「お前は本当の自分に気付いてないだけだ。自分で決めろよ。どっちを選ぶかは自分自身だ。でも、今のお前はお前で、そこに居て、ここにいる。あいつだって、俺だって、昔は、・・・子供だったんだ。」
そうすか、とヒロシが言うと森屋は煙草を消した。店を出ると、ほんの僅か、穏やかな空気が流れた。
二度と戻らないあの時
夢の続き
スバルの CM で小学生の女の子が学校の宿題で「将来の夢を絵で描く話」があるんだけれど、その CM を見る度にこの物語にはもう一人出て来なかった人が居るんじゃないか、と思う。
それは、その女の子と家族の為に同じ夢を諦めた男の人。その人は表に出て来ない。何故なら、誰もその人の本当の気持ちや存在すら知られていなかったから。でも、実は遠くからその女の子の家族を見守っていて、誰よりもその女の子の成長を望んでいた。
その女の子と女の子の両親のためにその後の数十年間を諦めたからだ。その男の人は自分の人生よりも女の子の両親から生まれてくる女の子の命と家族の思い出の為に犠牲になったんじゃないかって。
だから、諦めて挑戦しなかった。その男の人は「自分が家族に囲まれて幸せに生きること」を。その女の子の「夢」のために。
雨ふり天狗
これからとととの話をする。僕にはととが二人居る。二人と言っても数え方次第だが、ととが幼い僕を抱きかかえた写真は今でも残っている。
ととは麦わら帽子を被ったひまわり畑の女の子の話をよくしてくれた。白いワンピースの女の子で…
「こんな綺麗な晴れ渡る青空なんだ。絶対に戦争なんかしちゃ行けないよ」
とととは言った。
ある日ととは倒れた。皮膚病でがんに変異して辛さの余り倒れてしまった。ととが60歳の頃だった。年金や退職金を貰おうとした矢先のことだった。
来る日も来る日も
「お父さん、お父さん」
と病床の父を見舞った。
あれは冬に差し掛かった頃だと思う。ととの好きな真っ赤な花を買ってあげた。そしたらととが
「お、ま、え、の、ま、ま、こど、も、の、顔を、見せてくれ」
と弱々しく口を開いた。ととはなぜか笑顔で嬉し涙を流していた。
そして僕に
「あ、あり、ありが、とう。い、いいい、いい孫に、恵まれ、るんだぞ」
嬉し涙で目が濡れていた。
「お父さん」
僕も一言手を握りしめた。
「あ、ありがとう…愛してる」
その日からしばらく経って病床は空になった。
晴れ渡る青空を見ると思い出す。
(ああ、そうか。僕は戦争を経験した…家族の言葉があって生きているんだ)
ととが汗水流して働いたこと
血と肉を切り分けて僕が生まれたこと
そして、最後に
「ありがとう」
とととが涙を流したこと。
そうやって愛は愛を紡いで僕たちは生まれて来たんだ。
愛を教えてくれた人
最後まで愛を語ってくれた人
忘れてはならない
あの心の中の晴れ渡った青空を。
歌うたいのバラッド
カゲロウデイズ
タイトル:『カゲロウデイズ』(匿名掲示板より)
1夢見る名無しさん2019/06/30(日) 20:18:25.550
スレが立てたら書く
2打上花火2019/06/30(日) 20:20:31.790
俺の母親に乳がんが発覚したのはいつか分からない。でも伯母から突然知らされた。
俺は会社も自己都合退職で辞め、学校も中学と高校の二度辞めている。
自分のことでイライラしている俺は今でも母親のことに頭が回らない。
3打上花火2019/06/30(日) 20:23:19.600
俺は23歳で現役のゆとり世代だ。一年遅れて大学を卒業した矢先に母親の乳がんを知らされた。
正直に言えば、こんな忙しい矢先に何なのかと思っている。
今では葬式でメンタルがやられないようにいつでも母親の死を気にしないように毎日を考えながら生きている。
4打上花火2019/06/30(日) 20:25:43.300
普段の日常だ。母親は中国がまだ発展途上国で田舎だった頃に日本へ出てきてパチンコのアルバイトをやった後に夜の商売で金を稼ぎ、生活費を家の中に入れていた。
遅い時には朝に帰ってくることもあった。来る日も来る日もお客さんとの電話や付き合いの食事へ出掛けていた。
5打上花火2019/06/30(日) 20:28:20.440
俺はずっと日中混血であることを周りには黙るように言われた。勿論、母親であることも外では言えない。
父親と母親が家で連れ子である兄貴のことで揉めたり、警察を読んだ時には家族同士ですったもんだしたり、地味に忙しかった。
俺も学校へ行かなくなったり…色々とあった。誰にも知られずに生きていた。
6打上花火2019/06/30(日) 20:30:27.970
普通であること、平凡であることが何よりも難しい俺には普段通りというものに慣れなくて、問題行動を起こしてメンタルクリニックへ行ったりしてその薬を使って遊んだりしていたこともある。
俺になんて同情の余地がない。でも、家には金もなく、母は人並みの生活を一生懸命に維持する為に夜の商売で働き続けた。
7打上花火2019/06/30(日) 20:34:45.860
何度も考えた。不運が続いた人生だった。だからこそ、今度は俺の番だと思っている。
母親のがんが全身に転移したなら、残った家族は老いた父親だけ。伯母が言っていた。「生きている人を大切にするしかない」…だから、俺は母親が死んでも普段通りに生きる。
薬漬けになって、高校も中退して、友達も彼女もロクに居ないのが俺にとっての普通だった。だから、俺は母親に何があろうとも笑顔で許す。
愛しているから、死んだって笑って許すんだよ。俺は俺のことを残してなんて言わない。
仮に早く逝ってしまっても、俺は自立出来るから、楽に逝っておくれ。
8打上花火2019/06/30(日) 20:36:40.660
何度でも愛してるとか、愛されているから何とでも言っておくれ。俺は無条件に母親のことはいつまでも忘れないよ。
祖母もがんで死んでしまって、こんなのはただの因果だと思っている。俺はいつまでも母親が側に生きていると思うから、寂しくないよ。
9打上花火2019/06/30(日) 20:38:30.540
最後に親孝行をさせてくれる時間をたくさん残してくれてありがとう。まだ時間はたくさん残っているから…俺も母親には何も言わない。
俺はどんな痛みも味わって来た。愛する人の死は好きにしておくれ。
どんなになっても俺はお母さんのことを愛しているから。
10打上花火2019/06/30(日) 20:41:39.400
俺は泣かないよ。何回も泣いてきて、何度でも見送れるようにと準備はしてきた。
葬式の日は普段通りに見送るよ。これが、ただ普通の日常である毎日。
信じなくてもいい、俺はただ誰の為でもない自分の為に生きて行くから。母親は今でも生きている。
これが俺の日常茶飯事。死んでも殺されても同じことさ。それくらいに俺は思っている。
11打上花火2019/06/30(日) 20:43:53.750
人の死なんて平気に思えるから。最後にFacebookだけには書き残したよ。
母親には最期の言葉なんてない。強く生きる為には泣くより笑うしかない。
それが俺の人生だから。普段通りの日常。
36打上花火2019/11/06(水) 05:36:05.180
何とか快方に向かっているよ。医者からストレスがなければ再発の可能性は低いそうだよ。
これでもうちの母親はまだ夜の商売で働いているけどな。身寄りや身内が居ても、病気を抱えていても周りには隠して働いてることもあるさ。
悪かったな。迷惑と心配を掛けた。
ありがとうございました。
正直思ったよ
俺は子供の頃ブサイクでさ。年上のお姉さんに可愛がって貰える子供とか対等な立場で恋愛が出来るイケメンのお兄さんが羨ましく思えたり。
今も横になりながら「あの綺麗だったお姉さんがタイムマシンで過去に戻りたい」と言ってくれるといいなとか。
もし可愛がって貰えたら違ったかな。とても寂しい幼年期だった。
俺は一度も年上のお姉さんに相手にして貰ったこともないよ。バレンタインデーのチョコも従姉からしか貰ったことがない。
考えてみれば可愛がって貰えるお姉さんを探して根拠もなく遠くに出掛けたり。でも仕方ないんだな。
何か母性というものについて一度も可愛がって貰えたことはないな。もっと美しい容姿端麗だったら何かそういう特別な思い出が出来たかな、とか。
本当に青春時代に女の子との思い出なんか一つもなかったな。ただ呼び出されて買い物とかに付き合っただけ。
今更27歳の大人で可愛がって貰おうとか思わないよ。でも一生10年前のあの頃を引きずるだろうな。
ずっと頭の中には「可愛がってくれるお姉さんの存在」で頭がいっぱいだった。でもその一人のひとを今でも愛している訳ではないし、
宇垣総裁が結婚する時もいい思い出の一つとしてポケットにしまって置こうかな。壊れた時計を直す暇もないけど
けど
もし壊れた時計を直してただあの頃のあなたを見ていたらきっと思うだろうな
「心の奥底から愛してる」
その時が来てもあなたは僕の存在すら知らない。でもそれでいい。
僕だけが知っている心の中だけの思い出。あなたは間違いなく僕の憧れる愛する人でした。
愛してる
美里覚えてる?
貝がら割りで手を繋ぐんだよ
もしTBSスタジオ近くのベンチに一緒に座ってたら
向かい合って貝がら割りでずっと手を繋いでいようね
ブランケットは寒くならないように
ずっと貝がら割りで手を繋いで
握っていたいよ
初めは背伸びだったんだよ
あなたの背丈に合うように
愛しているから
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